忍者ブログ

古代エジプトのこと

古代エジプト関連限定ブログです! 宗教思想関連多め

天の牛の書1

『天の牛の書』を訳してみる
 The book of the heavenly cow
参考:
ヒエログリフ全比較・訳⦅PDF・独⦆(Erick Hornung 1997 Der aegyptische Mythos von der Himmelskuh)
サイト(製作者不明…) ヒエログリフ書き出し・訳⦅仏・英⦆
英訳 Wim van den Dungen 2010 The Destruction of Mankind - the New World Order and the Magic of Re
 (エジ語が微妙なので基本は訳されたものを参考にやります)

◆基本情報◆
・ツタンカーメンの第一の厨子の内側に初めて見られる
・大部分を書いているものは、セティ1世王墓(KV17)、ラムセス2世王墓(KV7)、ラムセス3世王墓(KV11)のもので、それ以降は部分的であり、新王国時代にのみ見られる。
・文書はアマルナ以降にしか見られないが、元ネタらしいものはピラミッドテキストにも見られる。(主に王の母が天の牝牛であり、死(引退)後その背に乗せられ天へとあげられるというような記述↓)
 §388,389(PT271/W178)、野生の牝牛である母とひとつになる
 §729(PT412/T228)、ヘリオポリスの中心にいる偉大な乙女が天で両腕をひらいて迎える
/母親は人ではなく偉大な牛である
 §1370(PT554/P527)、王は天の牛の息子、偉大な牛は彼を妊娠し産み落とす
 §1566(PT582/P524)、王は引退して、母なる牛が王を神々のいる天へともちあげる
 §2107(PT690/P282,N524)、母ヌトがあなたを受け取り、嘆くことのないよう手を取る

・埋葬室にこの書のための小部屋が設けられ、四方の壁に描かれる。
・天の牛は金(黄色)で塗られている
・天の牛の脚はそれぞれ男神(シューかヘフ)に支えられている。
・ローマ期にはファイユームの書で似たようなものが見られる。
・はじめの部分は「セクメトの人類抹殺」として部分的に有名なお話。


**

◆◇もくじ◇◆

「1」、人類虐殺神話①ラーの目(このページ)
「2」、人類虐殺神話②セクメト誕生
「3」、ラーの引退
「4」、天の牛の図
「5」、冥界と新しい秩序
「6」、神々のバー


***


天の牛の書1』人類虐殺神話①ラーの目
(セティⅠ、ラムセスⅡ、ラムセスⅢ王墓)

 それは、自ら生じた神ラーが、人々と神々のただ一人の王として存在していたころ、(地平に)昇ったときに、起こった。

 そのとき人々がラー神に対して企てをしているところだった。
「陛下(生き、栄え、健康であれ!)は、すっかり年老いたではないか。(そして)その骨は銀、その肉は金、その髪は本物のラピスラズリだ」※1
 
 さて、陛下が人々の企ての内容を知ると、彼は同行している神々に言った。
「私のところ(m a n=i)に呼んでくるのだ。私の目の女神を、シュー、テフネト、ゲブ、ヌトそして私がヌンのうちにあったとき共にいた祖なる父母たちを。ヌンの一味とさらに神ヌン、取り巻きたちを連れている彼を。
 静かに連れてくるように。人間たちに見られることなく、彼らの心が逃げることのないように。
 彼らとともに宮殿へ戻れば、
彼らは助言をしてくれるだろう。
 最終的に、私はヌン――私が生まれた場所――へ、これらの神々に連れられて戻るのである
※2

 そうして、神々は(ラー神の)両側に並び、彼(陛下)がこの最年長の祖なる父たち、人々と臣民の王を作りたもうた神の前でその内容を話すあいだ、陛下の前で額を地につけ(ひれ伏し)ていた。
 彼らが陛下に言うことには、
「話してください、我々がそれを聞けるように」

 ラー神がヌン神に話すことには、
「最年長の神、神々に先んじて私をその中から生じさせたものよ。ご覧ください、私の目から生じた人々※3が私に対してはかりごとをするのです。
 私のために、それに対してあなた方がすることを話してください。
 ご覧ください、私は思案し、それを殺さず(策を)探しました。あなたが我々に、それについて話してくれることを聞くためにです」

 ヌン陛下が話すことには、
「ラー、我が息子(子孫)よ。彼(ラー)を成した神(ヌン神自身)よりも偉大で、彼(ラー)が作り出す神々よりも年長なる神よ。
 あなたの玉座に座るように。あなたの畏怖は大きい。あなたの目を、あなたに対して企てするものたちへと向かわせよ」

 ラー神が話すことには、
「ご覧ください、彼らの心は砂漠の地へ逃げていきます。私が彼らのことを話したために、恐れているのです」

 彼ら(神々)が陛下の前で言うことには、
「あなたの目の女神を向かわせてください。彼女があなたのために、それらの邪悪な企てをするものたちを打つのです。
 あなたのためにそれらを打つのに、それに秀でた『目』は(他に)ないでしょう。彼女(目の女神)をハトホルとして敵陣に向かわせてください」

    ー2 へつづく




1:骨が銀、肉体が金、髪がラピスラズリであるのはエジプトの神々に共通してある認識らしい。ものによっては「今や骨が銀に~~なってしまった」と訳されるが、衰えの表現とするには疑問がある。
(個人の推測だけど、それらの《=神像を構成している》金銀貴石を奪い去ろうという意味では…? 「企てkAt」という言葉もそう考えると理解できるような。この話が出てきたのはアマルナ期直後《アテン唯一信仰の崩壊後》からであるため、前信仰期の、その他の神々への冒涜を、神像の金銀を奪い去る形《たぶん他のことに利用するため》で表現したものかもーそして実際そういうことあったかも―? と思ったけどそういう見解はまだ見たことないので違うかも(笑))


2:Dr(tw)のあたりをどう訳すかで見解が随分変わるようす。
 ①allと訳して前の「計画」にかけ、後ろを「私(ラー)はヌンへ向かわせ神々を連れてこさせる」と訳したり、(ただDrの前にrが必要そうだし、twの後ろに決定詞があるんですがその説明がつかないですよね…)
 ②「~以来」と訳して「私(ラー)がヌンより生じて以来、これらの神々に連れられてきた」と訳したりしてます。(「~以来」と訳すのだとDr sDm.fとなってるので間にtwが入っていいのか?とかあとやっぱり決定詞が不思議です)
 が、ここでは「最終的に」と訳すものを採用しました。Dr(tw)のうしろの決定詞が無視できないと思ったからです。参考の写しはA30になってますがA24ならしっくりかなと…。似てるし。 
 決定詞を重視してDrtyw「先祖」かな?と考えもしたのですが…そうすると訳は②に近くなるかな? ただポンと名詞が来るのどうなのか分からなかったので(あと先祖と訳してるの見当たらない)、一番しっくりくるやつで行きました。

3:rmwt「涙」とrmT「人々」の語呂合わせで、「人々は太陽神の涙から生じた」という神話より。 

拍手[0回]

PR

コメント

プロフィール

HN:
あやめ
自己紹介:
 古代エジプトについて趣味でいろいろ。
 ド素人が楽しくやってるだけのブログ。間違いもいっぱいあります。気付いたら直します。ご指摘感謝です。
 エジプト語読んでみる、とか書いてますが、ほとんどは訳を参考に、元の表現を確認しているだけ。文法がふわふわ。
 気が向いたときやるかも、みたいな。

カレンダー

03 2024/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30

最新コメント

[07/23 匿名希望]
[07/23 しょうもな]
[05/27 ぱああん]
[07/16 匿名希望]
[01/16 天平]

P R

アクセス解析