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古代エジプトのこと

古代エジプト関連限定ブログです! 宗教思想関連多め

天の牛の書5

「1」「2」「3」「4」の続き
***

天の牛の書5』冥界と新しい秩序
(ツタンカーメンのはここから、途中省略。他はセティⅠ、ラムセスⅡ、Ⅲ)

①冥界へ下る太陽

 この神、陛下がトト神へ話されること。

「ゲブ神を、急いで来てほしいと言って、呼ぶように」

 こうしてゲブ陛下がやってきた。

 この神、(ラー)陛下が話されることには、
「あなたの中の蛇たちに気をつけよ※1
 見よ、私は(冥界の)中にいるとき、彼らを恐れている。
 そして、あなたは彼らの力(Axw)を知っている。

「(だから)あなたは、父(先祖)ヌンのいるところを通過できるようにせよ。
 あなたは、地や水の中にいる蛇たちに注意するよう、彼に言うように。
 また、あなたの文書を、あなたの蛇たちがその中にいるすべての丘陵に対して、作るように。
 こういう内容で:
 『お前たちよ注意せよ、悪質なものすべてを監視するのだ』と。

「私の大いなる道にいるものたちについて、私がここにあり、彼らのために昇ることを、彼らが知るようにせよ。
 見よ、また彼らが必要とするものについて言えば、(永久に)この地にそれは存在するであろう。

「また、それらの呪文を知る魔術師たち(神々)に注意させよ。
 見よ、魔術は彼(神)自身の中にある。
 見よ、それを飲み込む※2のは、私がここにいるからだ。
 私が、私より前に生じた大いなるものと共に、監視するために現れることはない。

「私はあなたの息子、オシリスに彼らを分け与えよう。
 (オシリスは)年少者(Srrw)たちを守り(sAw)、年長者たち(smsw)のもつ欲望を忘れさせる(smhy)。
 彼らが望みに応じて成す、彼らの力(Axw)は、
 彼らの体内にある魔術師たちから、この地すべてに及ぶだろう」


②(夜の)太陽の代理

 この神、陛下が言われることには、

「私のそばに呼びだせ、トト神を。すぐに連れて来させるように」

 この神、陛下がトト神に言われるには、
「(汝らよ)見よ、私はここにいる。私の場、天の大いなる道に。
 また私は、ドゥアト(冥界)と、バアバアト※3の地に、明るい光を作るつもりなので、
 あなたは、その中(文書)に書き、彼らの中にあるものを、なだめよ。
 我々に作られた、反逆者の姿をしたもの。つまりアケルウ(神)、不満をたずさえているものたちの、この心を※4

「あなたは私の後継者(sty)として、私の場(st=i)にあるように。
 それによってトト神、あなたは、『ラーの後継者』と言われるように。
 そうして、あなたより年長なものたちへ、あなたが送らせるようにしよう(hAb)※5
 こうしてトト神からトキ(hby)が生じた。※6

「私は、あなたより偉大な原初の神々の前で、あなたの手を伸ばさせることにしよう。
 あなたが私に関することを生じる(xprt-xny)ようにしてくれるなら、私にとって良いことだ」
 こうしてトト神からトキ(txn)が生じた。※6(2)

「私はあなたの完璧さと輝きをもって、両天を囲(inH)わせよう」
 こうしてトト神から月(iaH)が生じた。

「私はあなたに、北端の民たちが戻(anan)るようにさせよう」
 こうしてトト神からヒヒ(anan)が生じた。
 そして、それは宰相になった。

「あなたは私の後継者となるだろう、
 そうして、ひとが見ることのできる顔のすべては、あなたによって開かれるのだ。※7
 私が作ったすべてのものは、神であるあなたを崇拝するようになるだろう」


死者への儀式

 ひとは彼自身でこの言葉を話すこと。

「モリンガ油、メルケト油を手で塗り込み、スネチェル香の香炉を彼の両腕の上に。
 彼の両耳と両手のまわりへHsmnナトロンを(すりこみ)、bdナトロン(球状)を彼の口の上へ。
 彼の服は新しいリネンのもの。彼を増水の水で清める。白い紐(でつくった)サンダル。
 書記の白色(インク)で、その舌にマアトを記す。

「もし、ラー神へそれを読もうというトト神の心があれば、
 彼のもとで清めよ、3日間で清めること9回。
 それを読む者にかかわる人々、しもべたちも同様にする。

「彼はこの書の中のものへ形をつくる(ように)。※8
 (そうすれば)彼は彼の人生の時を二倍にする・・・増えるだろう。
 彼の両目は彼の体部分すべてとなり、彼の動きに従わないことはないだろう。
 彼は人々に言われるだろう、『産まれたばかりのラー神のようだ』と。

「彼のものは少なくない。彼の住居は脆くない。
 100万回も正しい方法」※9
 
  ―6へつづく―

***

 アムドゥアトの書とか大地の書とか、蛇がいっぱい出てくる冥界文書シリーズが描かれるようになった経緯を説明してるのかな…?とおもった。

 ラーが世界全体の王であった時代が終わり、地上を離れ天に昇り、また地下をもめぐることで死者にも恩恵を与えるようになる話らしい。
 ピラミッドテキストでは、死後王は天に上ることを強調していたが、ここで太陽神が地下(死者の世界)にもぐることが丁寧に描かれていることが印象的。まあでも、地に向かったあとも最終的に持ち上げられる(再生)わけですが。

 地下の世界の脅威=蛇を、ゲブの力で抑えさせ、その見返りに地下の支配権をその息子オシリスに渡し(地上そのものはゲブに、というところかな。書いてないけど)、
 死者のうちにある不満等の心情を、トトの文書でなだめさせ、その見返りに夜の天の支配権をトトに渡した、というかんじらしい。
 体系的かつ複雑になっているので、そんなに古いものではなさそう。


※1:「あなた(ゲブ)の中の蛇」とは、ゲブ=大地、地中そして地下(冥界)にいる蛇のこと。
 aHA.tw Hr HfAwtとあって、戦わせるのかな?とか思ってたら、三つの参考訳すべてが「注意せよ」だったので、見つけられなかったけど従いました…。

※2:神の体内にある「魔法HkAw」は、死者の書等によると、奪い取ったりできるもののようで、そうしたことから、「飲み込む」とは魔法の力を持つことか。
 ここではラーが、彼らの魔法の力は自分に由来する(ラーの存在により得られた)と言いたいっぽい。
 ホルヌンクは「(魔法を)組みこんだのは私だ」と訳してました。

※3:バアバアトと言えば、ナイル川の上流にある急流のうず、またナイルの水が生じるとされた架空の洞穴、を指すんですが、水の決定詞がないこともあり、ホルヌンクは別のものではないかと考えていました。「バア」に魂を表す鳥or雄羊を充てていることもあり、冥界の魂に関わる場所とかではないか、と。
 どっちにしろ、天の(光の)道に対して、暗い所、冥界に近い所ではありそう。

※4:アケルウはirkrwと表記されてる。ホルヌンクによるとこれらは、先に述べられた、ラー神への反逆者が、殺され冥界に来たものか?と。
 アケルウは、獅子でも表される「地平線の神」アケルとは別なのではないか、とおもうんですが、説明で分けられてないことが多い…。ここで書かれてるアケルウは、どっちかと言うと悪性の神(地下属性で複数しかも下級の神)っぽい。
 ホルヌンクの註にもそのようなことが。複数形の「アケルウ」神は、蛇の決定詞をつけて、死者の書108章にも出てくる(コフィンテキストは160章、決定詞は神の複数)。

※5:ラー神が使いの者を送るように、トト神にもそれができるようにする、という意味っぽい。

※6:語呂合わせで魔法が生じるやつ(気づかなかった…)。(2)は古いエジプト語で「トキ」らしい。

※7:開く、というのは、光を注ぐこと。視界を「ひらく」というかんじ。

※8:形とは、天の牛の図の事か。読むときは、書かれている通りのポーズをせよ、という意味っぽい。

※9:正しい、を「100万回」言うことで強調。同じフレーズがアムドゥアトにもありましたが、けっこう宗教文献(葬祭関連の)で見られるのかも?


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 古代エジプトについて趣味でいろいろ。
 ド素人が楽しくやってるだけのブログ。間違いもいっぱいあります。気付いたら直します。ご指摘感謝です。
 エジプト語読んでみる、とか書いてますが、ほとんどは訳を参考に、元の表現を確認しているだけ。文法がふわふわ。
 気が向いたときやるかも、みたいな。

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