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●遠方の女神3

http://www.philae.nu/akhet/DistantOne.html

 下の枠の中の、お話を訳します。
 枠の下に書かれている数冊の本を参考に、筆者が再構築したものだそうです。

 少しだけ(訳しやすく、また読みやすくするため)変えているところもあるのでご了承ください。

****

 女神の帰還
(自由訳)

 とても機嫌のいいときはハトホル、あまり良くないときはセクメト、それらの中間ではテフヌトという名の、偉大な女神がいました。
 父王ラーがケメトの地(エジプト)を心配する様子に飽き飽きして、ある日女神は、ライオンの姿ひとつでヌビアへと去っていってしまいました。
 そこでほかの雌ライオンたちのように歩き回り、狩をし、気分よく自由に過ごしていました。

 国では誰もがハトホルがいなくなったことを悲しんでしました。
 国は陰鬱になり誰もパーティーをしなくなりました。誰もがつまらなそうに時を過ごしています。
 ラーはトトを呼びつけ、女神を追って連れ戻すよう命じました。
 「何でも約束してよい」ラーはいいます。「連れ戻さねばならんのだ。彼女のスカートめくり(※)がなくては、何も楽しめんじゃないか」

(※ [『ホルスとセトの争い』の神話の中で]ラーがひどく落ち込んだときに、ハトホルが彼の前でスカートをめくってみせて元気付けた、という一説がありましたよね)

 そうして、トトはヒヒの姿をして行きました。
 何日も放浪した後、
 彼はその女神がおいしい食事の後ぼんやりと岩影で、歯をつつきながらゆったりと休んでいるのを見つけました。
 彼は注意深く近づくと、息をおおきく吸って、(ここでラスタ(ジャマイカ)風のかつらと訛りを想像して…)

 トト「やあ、ハトホル!」

 大きな雌ライオンはゆっくりとまぶたを持ち上げると、小さなヒヒを見遣りました。小さなヒヒはちょっとだけもじもじし始めました。それから、彼女は見るだけで畏怖の念を抱かせたので、彼は神であるにもかかわらず、話を続ける前に数歩引き下がりました。

 トト「やあ、こんなふうにだらだら遊ぶのはやめて、戻ってきたらどうだい?」

 女神は答えず、ハエを払うために尻尾をゆらゆらさせるだけでした。
 トトは足の間で自分の尻尾をいじると、唇をなめて、もう一度話しかけました。

 トト「ラーは君にどうしても戻ってほしいって。ねえ!
  どの宮殿もがらんとしてるし、誰も踊らない。ビールなんて全部飲まずに放ったらかし。スカートめくりもないし……どこに行ってもつまらなくて、どこへ行っても哀しい感じがするんだよ。」

 ハトホルは前足を伸ばすと、あくびをしながら、

 女神「ふああああああああああ……。そうは思わないわ。うまいことに、ここには影もあるし、捕まえられるのを待ってるような間抜けなアンテロープもたくさんいるしね」

 トトは少しそわそわしてきました。ご存知のように、彼は上からこんな命令を受けているのですからね。

 トト「だ、だだだだ、だけど……、ラーは、ほ、本当に、君を連れて帰らないと怒っちゃうよ」

 ハトホルは喉を鳴らすと、くつろぐように体勢を少し変えてから言いました。

 女神「背中を掻くならバステトに頼んだらって、パパに伝えて。あたし今そんな気分じゃないから」

 トト「で、でも……、そうしたら、ラーはバステトが君の神殿で踊るのを許しちゃうんじゃないかなあ……」

 ハトホルはまた喉を鳴らすだけ。
 トトは知恵を引き出さなければなりませんでした。

 トト「ねえ、そうだよ、僕と一緒に戻ったら、もう一生仕事をしなくていいって!約束するよ!」

 ハトホルは興味無さそうな様子でしたが、トトは彼女の金の瞳にほんのわずかな光をとらえました。それに賭けるように、彼は続けます。

 トト「そ、そそ、それから……大きな宴をひらくよ! 君は歌って踊って……え、え、えっと、好きなだけビールやワインを飲めるんだよ!」

 彼はダンスに誘うような楽しげなステップを踏んでみせました。女神はもちろんのってきませんでしたが、しかし少しだけ、顔をこちらに向けました。

 女神「……スカートめくりも?」

 トト「そう!! スカートめくりも、もちろん!」

 女神「あたしがやりたいと思ったら、いつでも……毎日でも?」

 トト「毎日、そうとも! やりたいと思っただけ、いくらでも!」

 女神「約束する?」

 トト「約束するとも、ラーの言葉にかけて!」

 それは魅力的な話でした。もちろんそうでしょう。
 彼女はゆっくり立ち上がり、伸びをして衣服を整え始めました。女神がトトについて出発するまでに、ずいぶんかかりました。

 戻りつくまでの長旅の間、彼女の気持ちは何度も揺らぎました。一人っきりで砂漠や枯れ谷をさまよって、狩りに夢中になるのはどんなに楽しかったことか……彼女は一人で考えます。
 ところが、トトは彼女を引き付ける方法をおさえていました。
 この雌ライオンが伏せてしまったり、戻ろうとしたときはいつでも、トトが、動物と、彼らがどう人を扱ったかという話を、そしてそのときマアトがどのように取り成したかもしくは成さなかったかを、話して聞かせました。
 それらはたいてい上手くいきました。トトの賢い語り口に乗せられて、セクメト/ハトホルはすっかり、なぜ自分が立ち止まったのかを忘れてしまい、代わりにトトがゆっくりしかし確実に帰路をたどってゆくのに付いていっているのでした。

 ケメトの国境で、女神はライオンの容姿を脱ぎ捨て、いつも彼女が着ていたようなゆったりとした、薄い衣に身を包み、シストルムを手にして、期待に満ちた目でトトを見ると、

 女神「約束を忘れないで。ビール、ワイン、音楽、踊り、歌それからスカートめくり。仕事は無しよ!」

 トト「ああ、わかった!
  でも、ひとつだけ。そのライオンみたいな臭いのままで、ラーの前に行く気ではないでしょう?」

 トトは安全な距離をとって――エジプトに入ったばかりのところにある、フィラエ島のイシス神殿の屋根の上から――そういいました。
 雌ライオンはみるみる先ほどの、上品とはいえない容姿に戻りました。

 女神「それって、あたしが臭うって意味!?」

 低くうなりながら女神はいいます。
 トトは急いで塔門に飛び降り、西の柱廊の屋根へと飛び移ると、彼は女神に背を向け、下の水をじっと見つめました。
 低い音が彼の肩を掠めると、その瞬間、彼は声を上げます。
 
 トト「うわあ、すごい!」

 本当はセクメトが、自分の清潔さについてケチをつけられたことに対して怒っている以外には何も起きていないのですが、トトは自分の見ているものにすっかり惹きつけられたというふりをして、また言いました。

 トト「僕は……僕は今まで見たことないよ、こんな……こんな美人なひと!」

 セクメトは疑いをもって止まりました。《美人ですって? どこに?》
 彼女はいつも見かけには少し気を遣っていましたし、実際(多くの女性がそうであるように)にとても美人でした。そしてまた、そういったことを比較することにも敏感でした。彼女に言わせると、たとえライオンの姿をしていても、もちろん自然体でも、自分より美しいものなどいるはずがないのです。

 トト「「あそこだよ、この下の水の中。ほらその下に、ほんとに素敵なかわい娘ちゃんが見える。今まで見たこともないくらい素敵だ!」

 女神「水の中に?」女神が近づいてきました。

 トト「そう、そう。ここに登ってきて、自分で見てごらん」

 セクメトが飛び上がります。そうして、二人が西の柱廊の頂から揃って水をのぞきこみました。

 女神「何も見えないわ!」

 トト「そこだよ、そこ! もうちょっと屈んで、よく見て!」

 セクメトが水に映った自分の姿を目にすると、女神は興味を持ってもう少し身を屈めようとしました。
 そうです、これこそがトトが企てたことです。ほんのわずかな「助け手」により、女神は地上から冷たい水中へと見事に落ちてしまいました。
 えー、もう…、とかぶつぶつ言いながら、女神はしばらくフィラエの池で泳いでいましたが、だんだん落ち着いてきました。
 岸に上がるころには、完全に優しい、楽しげなハトホル女神に戻っていて、ライオンのような臭いも姿も、すっかり落とし去っていました。

 そして彼らが行くところはどこでも、ラーの宮殿に戻る旅の間、人々は宴と花や美味しい食べ物やワインの供物を捧げました。
 両国のすべて、南の急流から北のデルタまで、人々はこの女神の帰還を喜び祝い、それは毎年この日に続けて祝われることになりましたとさ。
 
 おしまい。

 

******

 すみません訳が適当で。雰囲気だけ見てください。
 序盤のトトやセクメトの動物的しぐさと、「女神がトトによって怒らされる」ところは、面白いですね!
 実際にこの通りだったか、原文を見ていないのでわかりませんが……。
 読み物としては本当に面白いです。トト神が意外に小物で(笑)。でも、上手く知恵を絞ってるのは、こうだからこそ引き立つんでしょうか。
 しかし、実際に「トトがセクメトを怒らせた」という途中のエピソード、
 どうして、わざわざ怒らせちゃうんでしょうね。
 たぶん、きっと、トトが「月をなだめる」という神話上の役割を表現する必要があったんじゃないかと思いますが……。(欠けた月を戻したり、とにかく、月の満ち欠けが正常に推移するようにするのも、彼の役目ですよね。)
 水の中に自分の姿を映して~なんて、今やっちゃうとベタな展開ですが、なるほどという感じです。なにより、やりそう。
 トトがヒヒの姿で登場するのは共通のようです。「2」を見ると、なるほどという感じです。
 これが、シューやオヌリスだったら、どうなっているんでしょう? 気になるところです。

**

遠方の女神、
 別名『放浪の女神』、『遠方のものの帰還』、『眼の帰還』。

 『セクメトの人類虐殺神話』の続きのように語られるこの『遠方の女神』の神話ですが
 たしかに、赤い酒を血と間違えて酔っ払ってしまったことを、騙されてしまったと考えれば、『遠方~』の女神が(騙した)ラーに怒るのも納得です。
(ただし、ものによっては、酔ったセクメトはおとなしい女神に戻りますね)
 けれど、1,2でみてきたように、
 古くからさまざまに言及されているこの『遠方の女神』、創造主の眼としてのこの女神は、どうやらはじめは「シューとテフヌトを探すために送ったもの」であり、
 見つけ出して戻ってきたら、自分の居場所がなかった(新しい眼を作っていた)ことに対する怒り、というふうに見ることもできますよね。

 このサイトの書き手は、
 「神々が地上を治めていた神話の時代」と「人が現れ、神が天に引退した時代」を分けて考え、
 『遠方~』の神話が前者であれば、人類虐殺神話の後であるはずがない、「だって人間を殺せますか?(存在しないのに)」
 と指摘しています。面白いです。
 セクメトの人類虐殺神話で、ラーが天に昇る(王を引退する)ので、もし「それ以降」だとしたら、ラーが「陛下」として登場しないかもしれませんね。
 ただ、
 「神話は神話であり、人間には完全に理解することはできない」
 …まあ、そうですよね。突き詰めて考えないほうがいいのでしょう。
 
 とりあえず、この二つは同じラーの眼の神話ではありますが、
 この二つの神話が続けて描かれる例はないようですし、
 また、遠方の女神の出だしは、女神が怒ったという事は書かれていますが、その理由はまず書かれていないようです。
 
 

拍手[1回]

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コメント
無題
調べてみたのですが、デモティック版とギリシャ語訳版、また新王国時代にもテキスト(ヒエログリフ?)があるようですね
デモティック版についてはPapyrus Leiden I 384 というものが残っていて、そのドイツ語訳にDer Ägyptische Mythus vom Sonnenauge, der Papyrus der Tierfabeln, Kufiという本が良さげです
スキャンしたのがttps://archive.org/stream/dergyptischemy01rijk#page/57/mode/2up
テキストデータがttps://archive.org/stream/dergyptischemy01leyduoft/dergyptischemy01leyduoft_djvu.txtのURLにあります
あと、たぶん本物のパピルスをスキャンしたものがttp://www.rmo.nl/collectie/zoeken?object=AMS+75+vel+2にあるっぽいです
あと、ギリシャ語版はまだ詳しくわからないのですが、トトがヘルメスになってるみたいです
【2015/05/27 02:29】 NAME[ぱああん] WEBLINK[] EDIT[]
ありがとうございます!
なんとーー!!
ありがとうございます!!!

 お知らせしてくださったものを見せていただいたのですが、ドイツ語が読めず(笑)…すみません自分の力が足りない!

 でもいろいろ見ていると、確かに、このライデン(・デモティック)・パピルスのⅠ384に、テフヌトの帰還の話が載っているのですね!
 今こちらのほうで調べようとしています、ちょっと時間がないのでこのあとゆっくり読みます!
ttp://quod.lib.umich.edu/cgi/p/pod/dod-idx/tale-of-two-tongues-the-myth-of-the-suns-eye-and-its-greek.pdf?c=icp;idno=7523866.0025.183

 本当にこちらの力不足と言うか、お恥ずかしい限りです…。
 でも教えていただいたお蔭で少し見えました、今できるだけの事をやってみます!
 教えてくださり、本当にありがとうございます!
【2015/05/27 09:01】


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心はイウヌ在住。ラー神信者。

 古代エジプトについて趣味で勉強中。
 正式にはまったく学んだことのない、完全な素人です(笑)。
 リンク先のブログ等をチェックし、好みで記事を選んでます……。
 突込みなどは、喜んでお受けします。勉強になります。

※相互リンクはエジプト関連のみ受け付けます。
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