古代エジプト関連限定ブログです! 宗教思想関連多め
ジュミラック・パピルスについて
Jumilhac papyrus
●基本情報
プトレマイオス期後(紀元前一世紀)
9m ルーブル
ヒエログリフの簡略形で書かれ、死者の書のような挿絵付の、
神話の地理的論文である。
上エジプト第17州のインプウト(ジャッカルの都市)にて美しいヒエラティックで書かれたもので、この州と第18州についてさまざまな伝説を記している。
パピルスには、
復興主義の下、古王国時代のもの(それらは虫食いなどの損傷を受けていた)を写し取ったものである、とかかれている。
3つの部分からなり、第一部は諸州の神々について、第二部は諸州の聖なるもの(例、聖樹、聖湖、宗教的タブーなど)について、第三部は各礼拝地のリストについて書かれている。
はじめの持ち主が23のシートに切り分けたらしい。のちにヴァンディエ(Jacques Vandier フランスのエジプト考古学者。1952-1978)が受け取り、彼による論文が1961年フランスで発表された。
The Jumilhac Papyrus, CNRS, Paris, 1961
●画像
●内容について
(さまざまな記述の抜粋)
Egypt, trunk of the tree: a modern survey of an ancient land, Volume 2 By Simson R. Najovits
(著者はラジオフランスインターナショナルの元編集長で、作家)
(※かなり省略してまとめています)
セトが無秩序、不毛、悪と同化しているだけでなく、ありえそうな調和(和解)を全然ふくんでいない。
少なくとも8度は殺され、毎度生き返っていた。セトは、二元論の両立を証明するため、正義の裏に必ず存在せねばならない概念を表現したものだった。
セトがついに王位を得たのは、オシリスの臓物を盗むことによってだった。そうしてエジプト全土への影響力を再び得た。
しかしセトは結局、ほんの一時的に王位を継いだだけだった。イシスが彼を噛み千切り、ヒョウに姿を変えたセトはアヌビスに焼き殺される(セトの肉の焼ける臭いをラーや他の神々も楽しんでいる)。
セトは再びよみがえり、この件でイシスを強姦しようと雄牛の姿で追い回すが、イシスは尾がナイフになった犬に姿を変えて逃げ、セトは結局イシスを捕まえることができず、砂漠の大地に射精する。そこでイシスがセトである雄牛を軽蔑する声を上げる。イシスは蛇に姿を変え、セトをかみ殺す。
セトを殺し、セトが生き返るのを繰り返し、アヌビスは隼の姿でホルスの目を回復させ、トトと協力してオシリスを復活させると、セトを砂漠へおいやろうとする。
セトはトトの書物(裁判の記録?)を盗んだりしたが、最後に大きな戦いがあり、ホルスがセトを殺すことで幕を下ろした。
セトの信仰地も、州も荒廃させ、名を削り、像を壊し、セトの手を切り落としてメスケティウ(天の大熊座)に送り、セトはそこで悪(霊?)に守られ、ほかの神がやってくるのを妨げる。
***
The Gazelle in Ancient Egyptian Art
Image and Meaning
Asa Strandberg
Uppsala,2009
http://www.scribd.com/doc/56724102/Full-Text-01
p168-174
(※ガゼルがテーマの論文で、gHs=ゲヘスはガゼルを表す語であることから、gHst=ゲヘセトという地名に注目しているようです)
このパピルスに書かれていたのは主に自然についての神話で、
地域の伝統によってホルス神と密接に関係するようになったアヌビス神の形によって特徴付けられる、オシリスの死と再生の物語のいちバージョンに関連しています。その中には「Gehesetゲヘセト」に言及した部分が二箇所あり、
イシス女神がセトとその一味から死んだ夫(オシリス)を保護する役割を含みます。
女神はセトを積極的に追い、(そのために)さまざまなものに変身します。
はじめは獰猛な雌ライオンのセクメト、そしてナイフのような尾を持つ犬(Tsm=チェセム)、そして最後に蛇(Hfty=ヘフティ)です。
どの外観でも、彼女はハトホルに関連付けられています。wnn Sm[-s] mHtt n spAt
そうして彼女は州の北へと向かった。
ir.n-s khpr-s m Hfty
彼女は蛇に姿を変えた。
aK.n-s n Dw pn Hr mHtt spAt tn
彼女は州の北のこの山へと入っていった。
Hr rs Hsyw stS m tw-sn tp wkhA
夜にセトとその共謀者が出掛けたときに、それが見えるようにするために。
Dd.tw n-s Hwt Hr nb gHst
このために、彼女は「ハトホル、ゲヘセトの女主人」と呼ばれる。
《ジュミラックⅢ、7-8》女神はセトの同盟者たちを監視し続け、それから彼女は(敵を)打ちます。
akha.n Ddb-s r Aw-sn
彼女は彼ら(敵)に対し怒っていた。
aK.n-s mtwt-s m Haw-sn
彼女は手足に毒を塗ったので
khp-sn Hr am sp wa
彼ら(敵)は一度ですぐに倒れる。
wnn snf-sn khr Hr Dw pn
彼らの血がこの山に流れ落ち、
khp[r] prS m gHst
ゲヘセトのジュニパーベリー(ヒノキ科の針葉樹ネズの実)となった。
《ジュラミックⅢ、10-12》このパピルスの文章の最後のセクションは、ヴァンディエによって『ゲヘセト』という題をあてられている。
そこにはイシスの変身の物語が書かれ、更なる仕上げを加えています。ir gHst
ゲヘセトに関して言えば、
Hwt nTrt n Hwt Hr gHst
ゲヘセトのハトホルの神殿であり
Hwt Hry tp tAwy
二国の長の家であり
Hwt iart sH nTr n Hwt Hr m st tn
ウラエウスの家はこの地のハトホルの聖なる小屋(の名前)である。
Ast pw ir.n-s khpr-s m [i]art
イシスはウラエウスに変身した。
sgd.n-s r smAyw stS
彼女はセトの仲間たちから身を隠した。
nbt Hwt im r gs-s
ネフティスは彼女の側にいた。
wnn smAyw Hr snt Hr-s n rkh-sn
(セトの)仲間たちが彼女の傍を知らずに通り過ぎたとき、
aHa psH-s sn r Aw-sn
彼女は彼ら全員に噛み付いた。
aA-s khAwy-S r Hr-sn
彼女は彼らの手足に2本の槍を投げつけた。
khr snf-sn Hr Dw pn prS
彼らの血はこの山に落ち、流れ、
khpr mwt-sn hr a
彼らの死はすぐに訪れた。
《ジュミラックⅩⅢ、10-15》この一節は言葉遊びを含んでおり、
血の流れ(grS=ゲレシュ)をゲヘセト山の上のジュニパーベリーと(grS)結び付けます。
ゲヘセトに言及した最後の部分は文章の一部に見ることができ、
ヴァンディエによってスケッチとともに注釈されています。
シートⅨの下の部分と所定のセクションXLVIIに見られるように、文章は墓地に葬られる神の描写からはじめられています。
HAt m Sw SAa n wsir nfrw r Hr sA Ast
「シューと共に始まり、オシリスと共に続き、そしてイシスの子ホルスと共に終わる」
文章は続いてそこに葬られた神々をリストにし、それにはゲヘセトのハトホルも含まれます(《Ⅸ、6》)。
この文章の中に見られるゲヘセトについての議論で、ヴァンディエはそれを、ゲヘセトのハトホルと、ウラエウスの神殿がある地域に、信仰上の関係があったことから、「une existence reelle(実在のものである)」と記しています。
ジュラミック・パピルスにおけるゲヘセトが、早期のテキストに見られるものとは違った、神話的な位置づけを持っていることは明白です。
そこはハトホルとしてのイシスが、セトからオシリスを守った場所なのです。
このバージョンにはホルスが奇妙なほど欠けています(描かれていません)。これにはむしろ、オシリスを守る役としてのイシス=ハトホルが描かれています。
彼女が蛇(khfty)の姿でセトを打ち破るというくだりは、この地域にウラエウスの神殿があることから、彼女は実際ウラエウスであるという意味合いを含んでいると考えるのに十分ふさわしいでしょう。
ジュミラック・パピルスにおけるゲヘセトは、イシスが自分自身を太陽の目と関連付けて変身させた場所で、同時に神々の最後の休息の場(墓)でもありました。7.2.8 ゲヘスティ―結びの言葉
ゲヘスティと呼ばれる、二頭の雌ガゼルの地は、
二千年以上の間をあけて、オシリス神話の重要な地として再び生じます。
ピラミッドテキスト上で、オシリスが探され、発見され復活した場所であることから、ゲヘスティは主に復活の場所として、コフィンテキストやマイの「オシリス賛歌」などで個別参照されます。同様に、パ・ディ・セマ・タァウィの石棺の後頭部にいるネフティスと関連づけて、ゲヘスティが死者が起き上がる場所であるということを含蓄しています。ジュミラックの証拠は、イシス=ハトホルの変身と、セトとその一味の敗北と関連付けていることで、ゲヘセトにわずかに異なる焦点を与えます。実際の信仰の場としてとらえるとき、ゲヘセトはppr mrw――今日のコミル(エスナとエドフの間)――と結び付けられていました。そこはグレコ・ローマン期のネフティス信仰センターで、ガゼルのカタコンベ(地下墓地)のある地域でもありました。
その代わりの地として考えられていたのは、pr anKtであり、女神アヌキス(アンケト)の信仰地でした。
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ジュミラック・パピルスについて
まとめて書かれた、自分に読める本が見当たらなかったので
偏った情報ですみません。
アヌビス神の信仰地というか、
ヘルモポリスの北、第17,18州あたりの地域の信仰の様子を記したものなのでしょうか。
アヌビス神がよく出てくるようです。
あと、この地域にハトホルの神殿があるとかで
ハトホルをイシスと結びつけて、この地が神話的にどのような役割を持っていたのかを記してあったりするようです。
「神々の最後の休息の地」というのが、アヌビスの信仰地らしい気がしてしまいました。
でも残念なことに、アヌビスについてあまり載っている資料を探せませんでした……。
アンプとバタの物語も、まさにこの地域のことのようで、このジュミラック・パピルスをとりあげて物語を説明したものもあるようです。
もともと、ベボとトトのエピソードを探していたのですが……。
ベボ(バビ、ババイ。ヒヒの神)が「トトはラーの供物を密かに横取りしてる」と告発したことに、トトが腹を立てたとか、それがまた事実だったとか、事実かどうかはっきりしないうちにトトが話をそらして、ラーが「トトは悪くない」と言っちゃったとか、そういうエピソードをどこかで見たのですが…(訳があいまいで・汗)、
裏が取れないうちにどこで見たか忘れてしまったので、また探してみます……。
また見つけたら記事にします。
●日本語で読める本
・『古代エジプトの性』リーセ・マニケ著、酒井伝六訳
p90に「牡牛に化けたセトに追いかけられ、ナイフを尻尾につけたイシスが気付かれず逃げ切ると、セトが地面に精射、それがベドデド・カウ(西瓜?)になる、というエピソード(Simson R. Najovitsのものに説明があったもの)と《Ⅲ、1-6》
p212に精力旺盛なベボ神について、トト神に逆らったため魔法で懲らしめられるエピソード《ⅩⅥ、15-21》が載っています。
また、
・『エジプトの神々』フランソワ・ドマ著、大島清次訳
p74、第16州の下流の岩窟神殿について、それがハトホルの神殿であり、
「この地にいるハトル、それはイシス、そのときかの女がその母サクメトの姿におごそかに変容して、災いのセトとその一党をのみつくそうとする・・・」(ヴァンディエ訳)
とパピルスの内容を伝えている( Asa Strandbergにものに書かれている、イシスが「はじめは獰猛な雌ライオンのセクメト」に変身してセトを追う、という部分)。